駅前広場で、数人の若者たちが「号外でーす」と叫びながらビラ配りをしているのを見かけた。
号外？ 何が起きたのだろう。さっそく受け取って眺めてみると、
「８月×日 ○×新聞が大変身！」
これが一面トップの見出し。号外のフリした○×新聞の広告だったのだ。新聞社の臨時の配布物なら“号外”には違いないけど、人さわがせな。と思いつつ、ざっと中身に目を通してみると……これが意外に面白い内容だった。以下、要約。
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指おりの発行部数を持つ○×新聞は、つねに迅速かつ偏りのない報道姿勢を（中略）ました。
しかし、現代における報道機関は、その報道の質だけで評価されるものではなくなってまいりました。
紙資源の節約の問題。宅配制度。あるいはまた（中略）です。検討を重ねた結果、本紙はきたる８月×日、一大変身することを決定しました。以下がその骨子です。読者の皆様のご理解と（中略）。
●宅配システムを大改革
人件費の高騰、人手不足、拡販の困難など、新聞の宅配制度は曲り角に来ています。そこで本紙は郵政省や宅配業者と業務提携を行ない、システムの簡素化・統合化を推進。
今後、本紙の読者には新聞といっしょに郵便や贈答品も配達され、古新聞の回収サービスも受けられます。また将来はＴＶ受信料の集金、国勢調査、健康食品販売などもふくめ、新聞配達店を“個別訪問の総合デパート”へと育成してゆきます。
●お好みのページをバラ売り
ご希望によりスポーツ欄しか見ない方にはスポーツ欄、受験生には社説、主婦にはラジオ・テレビ欄だけ……などをバラ売りで配達し、料金も割引きします。ただし紙面構成の都合で、経済面、国際面など、関係ないページがフロクにつく場合がありますのでご了承ください。
●読まない日は無料
生ゴミ袋にも使えるポリ袋パックで配達し、包装を破らずに返却された新聞の代金はお返しします。何日も留守にして新聞を読まなかった場合もこれで安心。旅先で同じ○×新聞をお買い求めになっても無駄になりません。しかも、ポリ袋パックのため、雨の日の郵便受けで新聞が紙粘土になる心配もありません。
●誤報を恐れません。
「新聞に書いてあることはいつも正しい」という意識を読者の皆さんが持たれることは、とても危険です。
いかに正確な報道につとめても、誤報は必ずつきまとうもの。湾岸戦争のように、報道管制のために事実が報道できないこともあります。
読者に報道への正しい認識と批評眼を養っていただけるよう、
「あの新聞は、誤報もしょっちゅうだがとんでもないスクープもある」
ような記事作りを目指します。
●同じ事件を他紙より面白く
本紙独自のスクープも追及しますが、一方、どんなつまらない事件も読ませ方一つ、見出し一つで興味深いものになります。本紙は総合紙として初めてスポーツ新聞のスタイルをとりいれ、「見出しにつられて買う→読んでみると大したことは書いてない→しかし面白い」といった魅力ある記事作りに力を入れます。
※ ※
というわけで、この妙な号外に感銘を受けた私は、さっそくこの○×新聞をとってみることにした。
おかげで、今まで一階の集合郵便受けまで取りに行っていた郵便は玄関に配達されるし、前の晩に出しといた出前のどんぶりまで早朝のうちに持ってってもらえる。確かにこの新聞はお買いどくだ。
記事の中身はどうかって？ いや実は、まだ一度もポリ袋の封を切ったことがなくて。
(c)YanaKen 1991 as "バニー柳澤" オリジナル掲載誌：集英社「月刊PLAYBOY」1991/8?
＜FOLLOW UP＞ もちろん、ウソですからね。